6月に公開された映画「国宝」の観後観は?

良い映画の定義を「生きる希望」というポジティブな
タイトルにするとします。
私達が長い人生を生きる上でできれば遠ざけたい感情、それは「ネガティブ」な情感です。
その意味で「国宝」は、怖い映画です。
国宝は、人の妬み、固執、嫉妬、孤独、虚無といった感情で映画の画面が埋め尽くされています。
 
李相日監督の描く美しい歌舞伎の世界と、現実離れした角度から撮影され切り取られた画面。
スクリーンに映し出される表面の美しさとは対照的に、深い闇に吸い込まれ心底に沁みこむ黒ずんだ感情とは、対照的な美観が何日たっても頭から離れません。

3時間美しい画面を見つめ、大きな音と言葉に脳を支配され、自分もまた醜い人間であると自覚?洗脳?されます。見てはいけないものを見てしまったような「うしろめたさ」を感じます。

なぜ前向きな感情が映画に描かれなかったのか?
原作の吉田修一氏が描いた重要なシーケンスが、
映画では外されたことが、「ネガティブな塊」だけが残った理由ではないかと思います。

いずれにしても、主役の吉沢亮さんや横浜流星さんは、どのようにしてあのような歌舞伎の舞を身に付けることができたのでしょうか? 類まれなる体幹と運動能力・・・驚きです。一流の役者さんは何を演じても凄みがありますね。

国宝の観後感は、「悲しみ・後悔」でした。

2025年7月25日
阿久津五代子

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